Seminar, 2014


HI 「科学的概念を用いた構成的科学認識育成論-社会科時事問題学習の開発研究をと通して-」

我々が生きているこの現代社会は,日々急速な変化を続けており,そのような社会の中において,人々がよりよく生きていくためには,一人ひとりが今の社会が抱えている問題と向き合い,それらに対して,適切な判断を下し,最善の選択をしていくことが不可欠である。そして,社会科教育ではそのような力を備えた市民の育成を行っていくことが使命であり,その力の育成に全力が注がれるべきである。

このような問題意識から,筆者はまさに今起きている問題である時事問題に着目し,その時事問題を扱った社会科教育,すなわち,時事問題学習の開発をするに至った。

そして,本論文ではその時事問題学習の開発を通して,子どもたちに科学的概念を身につけ,構成的科学認識を育むための育成論を確立することを目指した。

本論文において課題点は残っているが,本論文では以下の成果を得ることができた。

1章では,時事問題学習の史的展開の分析などを通して,時事問題学習の現状と課題を明らかにし,社会科における時事問題学習の今後の方向性を示した。

2章では,科学という概念の捉え方について詳しく論じ,筆者の時事問題学習における科学的概念,構成的科学認識とは何かということを明らかにした。そして,筆者の時事問題学習は,科学的概念によって社会的事象を捉えていくことを通して,構成的科学認識を育み,子どもたちに社会的事象を適切に判断できる力を育成することを目的とするという構造を明確にした。

3章では,報道メディアにおける,時事問題番組の構造分析や池上彰氏の時事問題の見方などの分析を通して明らかとなった成果を,時事問題学習における時事問題の分析の仕方や,授業の構成の工夫などに応用した。

4章では,筆者が論じてきた時事問題学習の理論と方法をまとめ,授業案の形で示すことができた。そして作成した授業案の分析を述べ,授業の流れを明確にすることができた。

以上の点から,本論文の成果は以下の2点にまとめられる。

 1点目は,社会が複雑になり,様々な問題に日々対応が求められる時代に,時事問題という最も重要な題材の1つに注目し,時事問題を発問によって構造的に組織する授業構成論を示すことができた点である。

2点目は,科学的概念を獲得させることで,構成的科学認識を育む授業理論の構築を成し遂げ,科学を絶対視せず,社会の構成物として捉える社会科授業の発展に貢献できた点である。

これらの成果は,時事問題学習の開発における成果ではあるが,時事問題学習に限らずあらゆる社会科教育に貢献していけるものであると考えている。そして,本研究が社会科教育にとって意義のあるものにできたと考えている。

 

後藤 裕磨「シティズンシップ論に基づく社会科授業の開発―日本における実践例の検討を通して―」

  本研究では、「よりよい社会科授業づくり」を目指し、その際に子どもの主体性、知識獲得重視に偏らない授業構成が求められると筆者は考える。そこで、英国のシティズンシップ教育が大きく関係してくると仮定し、新たに英国シティズンシップ論に基づいた授業を開発した。

  第1章 現状で実践されている社会科の特徴や課題を論じ、社会科の改革が必要であることを明らかにした。

  第2章 英国シティズンシップ理論の研究から、その理論をどう取り入れているのかを、地理・歴史・公民の各分野で明らかにした。また、子どもの主体性を発揮できる環境を整えることが目標であるサークルタイムという実践例にも触れ、第4章における授業開発の参考とした。

  第3章 シティズンシップ教育はすでに日本で実践されていることから、その主な実践例を7つ取りあげ、検討を行った。その中でも、お茶の水女子大学附属小学校「市民科」が最も英国の形に近いと捉え、英国シティズンシップ教育とお茶の水女子大学附属小学校「市民科」の比較を行った。

  第4章 日本におけるシティズンシップ教育は、英国の形を取り入れられていないという考察から、筆者は英国シティズンシップ論に基づく新たな社会科授業を開発した。小学校5年生を対象に、2時間構成で「民主主義」について扱う。サークルタイムの実践として、フルーツバスケットを授業の導入で用い、ゲームから身近な生活に存在するルールを見つめ直す。展開では、身近な生活から社会を見つめ直すよう視野を広げながらも、身近な生活との関連にも触れることで、身近な生活と社会との接続を図った。授業の前後にはアンケート調査を行い、子どもの思考の変化をとらえた。授業実践後には、大きく5つの課題を挙げ、その解決策を論じたことで本研究の結論とした。

 

丹羽彩乃「生涯学習者の育成を目指した幼小連携教育論—ユネスコ『学びの4本柱』を用いたカリキュラムの提案を通して~

 本論文では、生涯学習者の育成をするためにはどのような課題と克服があるのかを分析し、この課題を解決すべく、生涯学習者の育成を目指した幼小連携の改革案を示した。

 第1章では、研究の目的と研究方法を示した。第2章「生涯学習者育成論」では生涯学習の定義と意義を明確にした。そのうえで生涯学習対策を分析すると、課題が主に2点あることがわかった。1点目は、環境整備面を重視しており、生涯学習者としての力をつける教育が重視されていないこと。2点目は、共生の意義が、「他人との共生」といった狭い意義でしか捉えられていないことである。そこで、生涯学習者となるには、「知ることを学ぶ」「為すことを学ぶ」「共に生きることを学ぶ」「人間として生きることを学ぶ」の4点を満たせば、生涯学習者となることがわかった。「共に生きることを学ぶ」は、他人との共生だけでなく、自分や環境との共生の意味も含めて研究を行った。

 第3章「生涯学習者を育成するための幼小連携論」では、幼小連携の定義を明確にし、生涯学習者育成論の観点からみた幼小連携の課題を明らかにした。そこで、幼小連携の課題を大きく【目標/目的の不明確性】【カリキュラムの連携不足】【教師間の意識のズレ】の3つに分類できた。

 第4章の「諸外国における幼小連携」では、アメリカ、イギリス、インド、シンガポール、タイ、ドイツ、ニュージーランド、フィンランド、フランス、韓国、台湾、中国、デンマーク、スウェーデンの14カ国を、【目標/目的の不明確性】【カリキュラムの連携不足】【教師間の意識のズレ】の3つの観点からみていくと、デンマークが3つの観点全てを満たしていることがわかった。

 第5章「生涯学習者育成論に基づく幼小連携カリキュラム」では、生活科が幼小連携を行う上でのキーとなることを証明した上で、主に3つの観点から幼小連携のカリキュラムづくりを行った。1つ目は、デンマークを参考にし、生涯学習者の育成となる「学習の4本柱」の観点からカリキュラムづくりを行ったこと。2つ目は、発達段階を理解した上で、生涯学習者の育成へ効率的に繋がる研究を行い、カリキュラム作成を行ったこと。3つ目は、既存の幼稚園、小学校(生活科)のカリキュラムの枠組みを尊重することである。

本研究で作成したカリキュラムを実行すれば、幼小連携の3つの課題も克服でき、生涯学習者の基礎ともいえる資質が備えられることとなる。つまり、生涯学習者の育成を目的とした幼小連携カリキュラムの作成をできたことが、本研究の成果であるといえる。

 

吉田賢司「小学校社会科における批判的思考力育成論−創造的思考力育成を目指して−」

本論文では、主に先行研究の分析や文献調査を行い、批判的思考の目的と要素、そしてその過程を明らかにした。その後、本論文で明らかにした批判的思考力を育成するための、小学校社会科における実践例の作成を行った。そのために、本論文は大きく3つの章で構成されている。

まず、第1章では先行研究における批判的思考の定義の分析を行った。その結果、批判的思考の要素は大きく、「主体性」「論理性・合理性」「反省性」の3つが必要であると考えた。そして、先行研究における批判的思考の定義を大きく「主体性重視型」、「論理性・合理性重視型」、「反省性重視型」の3つに分類した。また、ユルゲン・ハーバーマス氏の批判理論の分析を行った。

次に、第2章では先行研究や文献調査の結果を基に、本論文における批判的思考の目的と要素、そしてその過程を明らかにした。批判的思考力の目的は、自分の目の前にある問題や社会における問題を,自分なりに対処する力,またはそうしようとする姿勢の育成という創造的思考力の育成である。そのためには、「明確化」、「推論の土台の検討」、「推論」、「意思決定・判断」、「妥当要求」の大きく5つの過程が必要である。明らかになった、批判的思考の関係性を図式化した。

最後に、第3章では現状の社会科の問題点の分析を行った。そして、本論文における批判的思考力を育成するための授業実践例を作成した。対象は、小学校第5学年とし、学習指導要領社会編の内容(イ)「我が国の農業や水産業(食料生産)の様子と国民生活の関連」の授業実践例を作成した。