2018/2/22

 

院生の加藤くんが修士論文を書き上げました。在籍は2015年から2017年度。論文タイトルは以下です。

 

「社会科教育における社会参加学習の授業デザイン研究ー社会に提案・発信する社会参加学習から社会と対話する社会参加学習への転換ー

 

先日は本成果を社会系教科教育学会にて発表。発表テーマは以下。

 

「社会」と対話する社会形成のための授業開発ーゲスト・ティーチャーとともに作り出す公共空間の可能性ー

 

2年間、我がゼミで作成した加藤くんの修士論文をベースに空先生がリバイスをしたものを学会へ提案しました。私は都内で会議があり発表へ参加が出来ませんでしたが、多くの先生方からコメントを頂いた様です。刺激的な発表になり、嬉しく思っています。

 

加藤くん、お疲れ様でした!

 

 

 

 

修士論文概要

 

 

社会科教育における社会参加学習の授業デザイン研究

―社会に提案・発信する社会参加学習から社会と対話する社会参加学習への転換―

 

岐阜大学大学院教育学研究科総合教科教育専攻

言語社会コース(社会領域)1161131010

加藤 雅也

 


1)修士論文の概要

本研究は、3章に分けて社会科教育における社会参加学習の授業デザインの方略を示した。各章の概要は次のようである。第1章では社会科教育における社会参加学習の論理を分析した。まず社会科教育の中の社会参加の位置付けを示した。次に社会科教育における社会参加を類型化し、それらの特徴と課題を明らかにした。最後に一定の規範に基づく授業論として、社会に提案・発信する社会参加学習の論理を構築した。

 第2章は、社会に提案・発信する社会参加学習の論理に基づき授業を計画し、小中高の3校で実践した。小中高で同一のテーマ「花火大会のフリーライダー問題」を設定し、花火大会主催者をゲストティーチャー(以下GTと略記)として教室に招いた。

 第3章は、授業実践の課題を乗り越えるため、対話を手がかりとして新たな社会参加学習の構築を試みた。まず、対話を基盤とする教育論の代表としてP4Cの論理を明らかにし、重要な概念として探究のプロセス、3つの思考(批判的思考・創造的思考・ケア的思考)、探究を行う場、の3点を手がかりとした。次に対話を通して社会問題を探究し、自己の社会像を自覚、省察、更新することを目的とした「社会と対話する社会参加学習」の論理を構築した。最後にその論理を基にしたカリキュラム案として、「花火大会におけるフリーライダー問題」を教科書の単元の中に位置づけ、提案した。

2)修士論文の成果

 本研究の目的は①社会科教育における授業デザインの方略を示すこと、②授業実践をベースとした社会参加学習の理論構築及び授業デザインの方略を示すこと、③社会参加学習の授業をカリキュラムの中に位置づけること、の3点である。

本研究の成果は以下の3点である。第1は、実践ベースの授業デザインの方略をRPDCAサイクルに基づいて示したことである。本研究は従来の社会科教育研究でよく見られる論理実証主義的な研究や、優れた授業開発の研究ではない。本研究は一定の規範を踏まえながらも、可変的・状況的な側面をもつ授業デザインの研究である。RPDCAサイクルとは、従来の授業研究などで用いられるPDCAサイクル(計画→実践→評価→改善)に理論研究(R)を加えたものである。本研究では授業デザインをRPDCAに基づいて行うことにより、理論を実践化し、実践を理論化していく方略を示した。

2は、社会に提案・発信する社会参加学習の学習構造と社会と対話する社会参加学習の学習構造を示し、その転換を明らかにしたことである。社会に提案・発信する社会参加学習の学習構造は、解決策の提案・発信・再構築という結論を重視するため、それに向け直線的な学習過程となった。そのため、子どもは結論を急ぎ、多様な意見に耳を傾けることができず、表面的・道徳的な解決策の提案にとどまった。

そこで結論ではなく、社会問題の解決に向けたプロセスを重視した学習構造への転換を図った(図1)。ACまでは社会に提案・発信する社会参加学習と同様、現実社会の論争、社会資本を教室に取り入れ、教室を現実社会に近づける。社会に提案・発信する社会参加学習との違いはGT、教師、学習者それぞれの役割である。学習者は論争や社会的ジレンマの周辺的な立場から対話に参加し、問題を今ある状態から前進させることが求められる(D,E)。GTは古参者として学習者に立ちはだかりながら問題を前進させる(E)。教師はGT-学習者間の対話を促進させるファシリテーターの役割を行うことが求められる(F)。社会と対話する社会参加学習は、子どもとGTが対等な立場で対話を行い、社会問題を前進させていく過程で、子どもの持つ社会像を自覚、省察、更新していく学習である。このように実践をベースに授業論の転換を示したことが本研究の第2の成果である。

 

3は、教科書ベースとしたカリキュラムでも、単元の中に社会参加学習を取り入れることができることを明らかにしたことである。教科書における社会参加学習は、社会参加を市民的資質のゴールとして位置付けているため、実際にはそこまで到達せずに、後回しにされがちであった。

本研究で示した社会と対話する社会参加学習は、社会参加をゴールと捉えていない。また直接的な参加行動からは一歩退き、教室内で完結する。しかし社会と対話する社会参加学習は単発の授業を行っても効果は得られにくい。カリキュラムの中に位置づけることにより、教科書ベースの構成であっても資質能力育成に直接的に関わることができる。本研究で示したカリキュラム案では社会と対話する社会参加学習を単元の導入に位置づけた。第2時以降は教科書と同じ構成である。単元全体を通してみると第1時が社会像の自覚段階、第2時以降が社会像の省察、更新段階にあたる。つまり第1時で社会との対話を通して自覚した社会像を教科書の内容と照らし合わせることにより、自己の価値観や知識を省察し、更新していくのである。

 

3)修士論文の課題


本研究に残された主な課題は2点である。第1は、子どもの実態に応じた系統的なカリキュラムを作成できなかったことである。単発の授業や単元では、子どもの資質・能力を育成することは難しい。授業デザインをするにあたり、子どもの実態をよく理解し、それを踏まえて発達段階に応じた系統的なカリキュラムを構成する必要がある。

2は、アクション・リサーチを通して中長期的な子どもの資質育成過程を分析できなかったことである。中長期的なカリキュラムを編成するためには学期や年間レベルで子どもの変化を追う必要がある。

なおこれら2点の課題は子どもの私的領域に大きく踏み込んでいくため、学校との信頼関係が必要となり、大学院生に実現可能な範囲を越えている。来年以降、筆者が教職の現場についたとき、これらの課題に取り組んでいく所存である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 社会と対話する社会参加学習の学習構造

(筆者作成)