卒論概要

荒川 彰仁 「シビックプライドの醸成を基盤とした主権者教育の研究」

 

本研究の構成は以下である。第1に、日本、ドイツ、アメリカの主権者教育を比較し、日本で行なわれている主権者教育の課題を明らかにする。日本の主権者教育では授業実践、ドイツの主権者教育ではフィッシャー理論、アメリカの主権者教育ではサービス・ラーニングを取り上げる。第2に、前段階で明らかにした課題をもとに、社会に出て生きる主権者の育成のために、社会参加の必要性と社会参加に伴って醸成されるシビックプライドについて検討していく。ここでは、「ここをより良い場所にするために自分自身がかかわっている、というある種の当事者意識に基づく自負心」であるシビックプライドと主権者としての意識の関係に着目していく。第3に、主権者として必要とされる学力について検討する。ここでは、ニューマンの真正の学びを取り上げ、その理論を分析し、その課題を明らかにする。第4に、社会に出て生きる主権者を育成するための、シビックプライドの醸成を基盤とした主権者教育を提案する。ここでは、主権者教育のカリキュラムとその中でシビックプライドの醸成がどのように子どもの意識に変化を与えるのかについて検討する。

本研究の成果は次の2点である。1点目は、衆議院選挙総選挙の結果を分析することを通して、若者の政治意識の課題として、「政治への関心の低さ」と「政治的自己有効性感覚の低さ」の2つがあることを明らかにすることができたことである。また、日本、ドイツ、アメリカの主権者教育を比較することを通して、若者の政治意識の課題を改善するために、日本の主権者教育には社会参加が必要であるということが明らかになった。そして、社会参加することを通して、シビックプライドを醸成させる意義を明確にすることができた。2点目は、シビックプライドの醸成を基盤とした主権者の流れを明らかにすることができたことである。このシビックプライドの醸成に基づいた主権者教育では、日本の主権者教育の課題である政治への関心の低さと政治的自己有効性感覚の低さを改善できることを示せた。このシビックプライドの醸成に基づく、主権者教育においては、シビックプライドの醸成の指標として、「愛着」「アイデンティティ」「持続願望」「参画」の4つの指標を明らかにし、4つの指標を測るアンケートの1案を示すことができた。また、岐阜市においてどのような実施ができるのかの提案を行なうことができた。以上の成果から、シビックプライドの醸成を基盤とした主権者教育論を明らかにできたと結論づける。

 

 


宇佐見 駿太 「努力を基準としたライバルの有効性―教育における格差に着目して―」

 

 本研究は、自身の高校時代の体験を基に「ライバル」というものを主題に行った。その構成は以下のとおりである。

 第Ⅰ章では、他の研究者が「ライバル」というものをどのように捉えているのかを認識するとともに、「ライバル」の性質、そして本研究においてライバルをどのように定義づけるのかということについて検討した。第Ⅱ章では、現状として、学校教育と競争がどのような関係性であるのかを捉えた。続く第Ⅲ章では、その学校教育において問題視されていることについて分析し、その問題の実情や構造について検討することで、「ライバル」の有効性を示すうえで鍵となるものが「教育格差」であることを示した。第Ⅳ章は、本研究において核となる部分であり、前章の教育格差の構造や要員を踏まえ、「ライバル」の効果や努力と学習時間の関係性を示したのち、「ライバル」が教育格差問題に対してどのような役割を担うことができるのかということについて検討した。また、教員になったことを想定し、「ライバル」を意図的に構築するための手段についても検討したことで、より実践的なものへと昇華することができた。最後の第Ⅴ章においては、教育格差問題についてライバルでも克服できない部分を「ライバルの限界」と称し、その克服できない部分の一例を「ヤングケアラー問題」として言及すると同時に、教員としての向き合い方について分析した。

 本研究の成果は、次の2点である。第1は、「ライバル」の有効性についての再認識を行うことができた点である。これにより、高校時代における自身の体験に論理的な説得力をもたらすことが可能になったと言える。第2は、「ライバル」の有効性を活かすための具体的な提言を行ったことである。学習における「ライバル」の有効性を示す先行研究は数あれども、それをどのように活かすかということについては、第Ⅱ章でも示すような「ライバル」と「学校教育」の不適合性も相まってあまり言及されていないのが現状である。その中で、「教育格差」という学校教育問題を取り上げることで、「ライバル」の有効性の活用例を提案できたことは大きな成果となった。

 本研究の課題については、特に以下の一つを挙げる。それは、実証的な証明が行えなかったことである。今回示した「ライバル」の有効性とその提言はあくまで「理論的」なものであり、具体性にやや欠けるため下手をすると理想でしかない可能性すらある。そこで、実際に現場でライバルを構築し、目に見える成果を出すことで今回の「ライバル」の有効性はより絶対的なものとなる。本研究のみならず、今後の教員人生の中で自信が背負う課題とすることで、この研究を先へとつなげていきたい。


後藤厳楽「ローカリティを失ったユース・カルチャー:Z世代とY2Kファッションリバイバル」
 1967 年のいわゆる「サマー・オブ・ラブ」でサンフランシスコのヒッピーたちの聖地と言われるヘイト・アッシュベリーに集まった若者たち。彼らに無料の食事・衣服・住まいを提供した集団 「ディガー」の創設者ピーター・コヨーテは,インタヴューで「文化は政治よりも重要だ」と述べている。「文化」と一口に言っても様々だが,若者によって「ユース・カルチャー(若者文化)」が現代までに世界各地で築かれてきた歴史がある。それは日本も例外ではなく,戦後という80年に満たない歴史の中で数多くの「ユース・カルチャー」が各世代の若者たちの手によって築かれてきた。そして2010年代,「Z世代」が若者の中心となろうとしていた。「Z世代」という言葉は誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。「Z世代」に明確な定義は無いものの,1990年代後半~2010年頃の期間に生まれた世代を指し,生まれた時点からインターネットが普及していた初めての世代を意味する言葉として浸透している。この「Z世代」が若者の中心となった2010年代,特に2010年代後半頃からの日本のストリートファッションにおいては,過去の特定のスタイルにフォーカスしたリバイバルの流れが顕著に見られるようになった。
さらに,2020年代に入ってからは「Y2Kファッション」と表現される,所謂2000年代頃のファッションスタイルが新たに台頭してきた。この流れを一見すると,1990年代のファッションリバイバルの後に,2000年代のファッションリバイバルが起きることはごく自然に感じられるかもしれない。しかしながら,この「Y2Kファッションリバイバル」は従来の「ユース・カルチャー」のあり方とは異なる点が指摘できる。それは,従来のユース・カルチャーにおいては「物理的な空間」を伴う「ローカリティ(地域性)」の存在があったのに対し,「Y2Kファッションリバイバル」には「ローカリティ」が存在していないという点である。この指摘を踏まえて,本研究では「現代のユース・カルチャーはローカリティを失ったのではないか。」という仮説を立てる。
情報技術が急速に発展した現代の社会において,「Z世代」が若者と中心となり,ユース・カルチャーの担い手の中心となる中で,「Y2Kファッションリバイバル」を現代の一つの「ユース・カルチャー」と捉え,過去のユース・カルチャーや現代の若者全体との比較等を通じて,その特徴などを明らかにした上で,「ローカリティを失った」という仮説を立証することが本研究の目的である。
本研究では,第Ⅰ章~第Ⅲ章で様々な過去のユース・カルチャーを取り上げ,検証し,第Ⅳ章では,「Y2Kファッション」について,3つの調査結果を様々な角度から分析してきた。
 「Y2Kファッション」の特徴に関しては,まず,情報収集や購買を半数以上がオンライン上で行っていることが挙げられる。これは情報社会の発展やこれまでの世代よりも「ネットリテラシー」の高いとされる「Z世代」が担い手となっていることが関係しているだろう。また,過去のファッションや文化への関心度は高いが,「特定の文化」よりも「アバウトな雰囲気」を重視する傾向が強く,音楽面での傾向は全く見られなかったことも踏まえると,リバイバルの背景には「特定の文化」の存在はやはりなかったと言える。また,政治への関心度は全体よりも大幅に低い傾向にあり,対抗文化に見られたような政治主張を伴う現象であるとは捉え難い。むしろ,社会に対するネガティブな印象から形成された疲弊感に伴う形で,「アバウトな雰囲気の過去(≒存在しない過去)」へのリバイバルに傾倒していったという見方もできる。ただ,政治とリバイバルの相関関係に関しては,それを証明するデータがあるわけではなく,あくまで憶測の域にとどまっている為,その点については本研究の課題でもあるだろう。
 「Y2Kファッション」は,現代の一つの「ユース・カルチャー」であり,そのあり方は従来の様々な「ユース・カルチャー」とは異なる特徴を持っている。その背景には情報社会の発展や若者意識の変化をはじめとする様々な要因が存在し,そのような変化の過程の中で,現代のユース・カルチャーはローカリティを失ったのである。

二村勘太「新科目「公共」における社会科教育研究―ユルゲン・ハーバーマスの公共圏の在り方を援用して―」

 

 本研究では、4章に分けてハーバーマスにおける公共圏の在り方を援用した「公共」の授業理論を作成した。

 第1章では、新科目「公共」の誕生の背景や特徴について学習指導要領などを基に明らかにした。そして「公共」を通して目指される公共的な空間について、学習指導要領や東京書籍の教科書を分析する過程で生じた疑問から、改めて公共的な空間を明らかにする必要があることを示した。

 第2章では、ハーバーマスの提唱する公共圏の在り方について明らかにした。また、理想の公共圏の在り方の実現に向けて提唱されたハーバーマスのコミュニケーション理論明らかにし、コミュニケーション理論を援用した合意形成学習モデルについて示した。

 第3章では、現状の社会構造とハーバーマスにおける理想の公共圏を比較し、公的公共圏が説明責任を果たさない場合において市民的公共圏を公的公共圏へと浸透させていくことが困難であることについて示した。そして、こうした公的公共圏が説明責任を果たさない場合において適応性を育む必要があることを指摘し、適応性を育む学習理論を提案した。

 第4章では、適応性を育む学習理論を用いて「公共」における大項目Cの学習教材をデザインした。

 本研究の成果は、以下の2点である。1つ目は、「公共」における「公共的な空間」を定義づけることができたことである。「公共」では、科目を通して学習者が国家・社会など現代の諸課題の解決方法を議論、決定したり、実現を図ったりする場である「公共的な空間」を作る存在であることを自覚することが目指されている。しかし、学習指導要領における公共的な空間は抽象的であり、教科書においては公共的な空間を学習者が主体となって作る存在であると想定されているが不明確であった。そのため「公共」における公共的な空間については、合意形成がはかられるだけでなく、合意形成後に公的公共圏に対しても浸透していく動きがあるハーバーマスにおける公共圏の在り方を適用していくことが適切であることを明らかにした。

 2つ目は、「公共」においてハーバーマスにおける理想の公共圏の在り方を実現させるための学習理論を提案することができたことである。理想である公共的な空間を実現するためには、抵抗と適応をバランスよく育む必要があることについて指摘し、「公共」の大項目ABC3つの項目においてそれぞれ育成すべき概念について示すことができた。特に大項目Cにおいては、学習教材を提案することで柔軟な専門性を育むための手掛かりを示すことができた。

 本研究の成果や発表を通していただいた助言を踏まえ、今後の教員生活の糧としていく。

 


2024/2/21

 

過日は、卒業論文発表会。我がゼミは4名が登壇いたしました。タイトルは以下。

 

・シビックプライドの醸成を基盤とした主権者教育の研究

・新科目「公共」における社会科教育研究―ユルゲン・ハーバーマスの公共圏の在り方を援用して―

・努力を基準としたライバルの有効性―教育における格差に着目して―

・ローカリティを失ったユース・カルチャー:Z世代とY2Kファッションリバイバル

 

各論文の概要は以下に掲載を致しております。

https://www.nobolta.com/seminar-2023/

 

各自、しっかりと自身の問題意識を捉え、1年間そこへ対峙してくれました。発表では、オーディエンスに伝わる様、前を向いて発表・説明。立派にこなしてくれました。皆さん、ご苦労様でした。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024/2/6

 

今週は卒業論文最終試験(研究発表会)があります。本日は、その対策。各自が卒論の概要を示したレジュメ、及び発表スライドを作成し、議論しました。

 

発表は伝え方が重要です。自身が「言いたいこと」を一方向的に伝えるのではなく、オーディエンスがどのように自身の論を捉え、理解してくれるのかが大事になります。そのための振る舞いを含めて、考えました。

 

発表を楽しみにしたいと思います。みなさん、頑張ってください。

 

 

 

 

 

 

2024/1/31

 

卒論提出日。我がゼミ4名、無事提出が完了しました。よかった!

 

論文概要は後ほどアップいたしますが、全員、ギリギリまで粘り、内容の検討を続けてくれました。暫し、ゆっくりと休んでほしいと思います。ご苦労様でした。また、支えてくださったゼミの先輩方、ご指導ありがとうございました。

 

あとは、最終試験。引き続き、頑張って参りましょう!

 

 

 

 

 

 

 

2023/12/13

 

本学の卒論提出期限は1月末。私のゼミの場合、12月25日頃、一旦提出を求めています。今年のテーマは、”教科公共の改革”、”ライバルの教育効果”、”主権者教育とシビックプライド”、”ファッションから見る若者文化”です。

 

各々、進捗状況に違いはございますが、いよいよ佳境に入ってまいりました。写真の笑顔は、「佳境具合」を物語っていると感じています。

 

睡眠時間をしっかりと確保しつつ、自身と向き合って欲しいと思っています。引き続き、頑張ってまいりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2023/9/25

 

中津川ソーラー武道館二日目。引き続き、子どもの感性に感銘を受けつつ、色々と。

 

もちろん仕事で来ておりますが、私の触角は色々な場所で鳴り響く音楽へ。木村カエラ氏の"beat"や"Butterfly"に感激しつつ、シアターブルックの"もう一度世界を変えるのさ”に心を打たれつつ、仕事です。

 

初めてご一緒させて頂いた大工さん、通称“チーム木こり”の方々とも意気投合。見た目のビジュアルで当方とリンクする点が多いことだけでなく、社会や”学び”に関する考え方も近く、引き続き何かできたらなと。

 

それにしても、朝6時台に大学を出発し、戻りは20時(フェスは25時過ぎまで開催されていますが、我々は途中退散)。猛暑の中、終日、野外で活動をしていたため、ゼミ生全員が大きく日焼け。皆がよく動いてくれたことに感謝しております。

 

次回は5月に県外で行われる音楽フェスにも参戦が決定。研究室主催でちょっと大きなことが出来そうですので、ゼミ生とともに企画を練ってまいりたいと思います。関係の皆さま、引き続き繋がってまいりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

2023/9/23

 

中津川で行われている野外音楽フェス、ソーラー武道館へ。本日は初日。ゼミ生7名と共に参戦しています。

http://solarbudokan.com/2023/

 

今回は画家の近藤康平さんと共に、おおきな絵を描いていきます。メインは子ども。綺麗な動物を描く子。手にペンキを塗り、それで描く子。足に塗る子。すでに描いている下地を削りながら、何かを表現する子。様々なタイプがみられましたが、子どもの感性はどれも素晴らしいものでした。

 

ついでに、複数のライブも観戦。特に"ヤバT"のライブは最高。会場が渦となり、盛り上がりました。佐藤タイジ氏とコラボした"いとうせいこう is the poet"もよかった。明日も1日、楽しみたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

2023/9/10

 

日曜日は、我がゼミ恒例の"夏フェス"。卒業生が集まり、近況報告と兼ねて現役生の卒論へコメントをする会です。

 

今年は日程調整が難航した関係で人数は少なめ。ただ、オンラインを含めて16名参加してくれました。

 

先輩方の所属は色々。学校以外を含め、自身の経験や今進めている実践・研究、読書歴を踏まえて多方面からコメントが。「個別最適な学びは・・・」「感情と学習の関係は・・・」「ハーバーマスで学習の何が、どう変わるのか・・・」「シビックプライドはどこで、どのような過程で”醸成”されるのか?」「社会問題を考えることで、子どもには何が起こるのか?」「そもそも、リサーチクエスチョンは何か?」など、相変わらずの鋭さで、感心をいたしました。

 

それにしても、卒業生と会うと、その当時の記憶が蘇ってきます。懐かしく、嬉しく、そして楽しい時間でした。卒業生が、各自の持ち場・環境で日々奮闘している姿も伺うことが出来、頼もしく感じました。でも、あまり疲れすぎないようにね。その卒業生の皆さん、また来年!